すえてなたー

小説の更新のお知らせなどを書いています。

継承アリス第 75話

継承アリスは引き続き完結を目指します。
ただし、文章の質、物語の整合性は度外視しますので、あらかじめご了承下さい。



継承アリス 第75話『お守り』

 誕生日パーティーを開いてもらった後、朝永屋敷のみんなにお礼の菓子折りを持って行き、柊吾さんにも別にお礼の品を用意した。屋敷に行けば会えるみんなと違って、柊吾さんは呼び出さないと来てくれない。メッセージを送って都合を訊いたら、今夜少しだけなら出てもいいと言ってくれたので、柊吾さんの家の近くのコンビニで落ち合うことになった。
 朝永屋敷で夕飯をいただいた後、アーバンブラウンのラパンでコンビニの駐車場に向かい、飲み物を買ってぼんやりと待つ。しばらくすると、コンビニ裏の住宅街の方からラフな格好をした柊吾さんが歩いてきた。柊吾さんと顔を合わせるのは花火大会以来、半月ぶりのことだった。ポケットに手を突っ込んで、取っ付きにくい顔をしている。
 誕生日プレゼントのお礼がしたいと申し出たとき、柊吾さんはそんなものいらないと返事をしてきたけれど、柊吾さんの好きな銘柄のビールを買ったのでもらってくれなければ困ると言って、強引に押し切った。
 柊吾さんは車から降りて「久しぶり」と言った私に不服そうな目を向けて、どうも、と、ぶっきらぼうに言った。
「誕生日のプレゼント、本当にありがとう。タオルとアームカバーをもらったんだけど、大事に使わせてもらうね」
「そいつはどうも。――悪いんだけど俺、眠気覚ましのコーヒー買いたいからちょっと待っててほしいんだけど」
「もちろんいいよ。いってらっしゃい」
「里奈はなんもいらんの?」
「私は今飲み物買ったばっかり」
「ああ、そう。じゃあ、行ってくるから」
 そう言って柊吾さんはズボンのポケットに突っ込んでいた手を引き抜いて、軽く私に手を振った。そのはずみでポケットに入っていたものがするりと落ちた。
「待って、柊吾さん。何か落ちたよ」
 しゃがみ込んで拾い上げると、落ちたのは小さな小銭入れだった。その小銭入れの背にポケットが付いていて、青いお守りが一つ入っていた。無意識にポケットから引っ張り出してまじまじ眺めていると、柊吾さんがすっと手を伸ばし、「か、え、せ」と、私の手からお守りと小銭入れを取り上げた。
「柊吾さん、そのお守りって……」
 柊吾さんは私を一瞥して、お守りを小銭入れの背中のポケットに戻した。
「お前がくれたんだろ? 交通安全のお守りだって言って」
「持っててくれたの?」
「捨てるわけにもいかないだろ?」
「でも、そんなふうに持ち歩いてくれてるなんて思わなかった。大事に持っててくれてたんだね」
「ばち当たりなことはしたくないんでね」
 そう言って、柊吾さんはコンビニに入っていった。
 自分のあげたものがこうして誰かの日常に寄り添っているのだと知ると、嬉しいような気もしたし、恥ずかしいような気もした。あの柊吾さんが、人からのプレゼントを持ち歩いているなんて信じられないような気もした。そうやって冷やかされるから、柊吾さんは他人には心を開かないのかもしれない。こちらから呼び出さなければ絶対に私達の前には姿を現さないし、約束を取り付けるまでにも色々言い訳して渋るので、交渉するのも大変だった。きっとビールで釣れるだろうからという蓮さんの入れ知恵がなければ、今夜だって呼び出せなかったかもしれない。考えれば考えるほど、不思議な人だった。
 陽が落ちるのはずいぶん早くなった。真夏の間はいつまでも空が明るかったけれど、今はもう暗い。
 柊吾さんは白い光を背負ってコンビニから出てきた。こちらに戻ってくるなり、「ほらよ」と、私にも缶コーヒーを差し出した。
「私にも買ってきてくれたの? 気を遣ってくれなくてよかったのに」
「お前だって俺に色々寄越してくるだろ? 今いらないなら後で飲め」
 そう言われると断ることも言い返すこともできない。
「ありがとう。じゃあ、後でいただきます」
 柊吾さんは、頑丈なビニール袋に入れた六缶パックのビールを二セット持って帰っていった。
 次に柊吾さんに会えるのはいつになるのだろう。明日会えるかもしれないし、一ヶ月経たないと会えないかもしれない。
 ただ、私のあげたお守りだけは、あの人のすぐそばに、寄り添っているらしかった。